今年の8月~9月前半は色々研究会やスクールに参加して、割と忙しい夏休みになりました。
ただ忙しかっただけだと悔しいので少しでもなんか形として残したいと思い、各研究会について所感をここで述べていくことにしました。ではどうぞ。
Nuclear Physics School for Young Scientists (NUSYS-2023)
ホームページ:https://indico.ihep.ac.cn/event/19097/
主に日中韓の核物理学者・学生が参加するサマースクール。今回の会場は上海のFudan大学で、財源を持たない学生には宿泊費・航空券代・ビザ代その他諸々の資金の援助がある。スクールと名のつくだけあって基本は講義のみで進行していくが、途中で学生がメインのポスターセッションがある。
講義内容は理論と実験がだいたい半々といったところ。実験系の講義や発表はどのくらい物理に関係あるか分からない実験器具の話が延々と続くためあまり得意ではない。では理論の方はどうかというと、こっちはこっちで難しくてよく分からなかった。とりあえずたくさん質問を飛ばした。おそらく全セッションの半分以上では手を挙げたと思う。途中からは座長にも若干ウザがられている雰囲気があった。
面白かった講演はまず同じ東工大の中村隆司先生の講義。中村研は中性子過剰核を主に扱っているので僕の研究テーマとも若干オーバーラップがある。一方で僕は自分の研究テーマに関して理論的なフレームワークをほとんど勉強していないので、中性子過剰核一般のことに関しては全然知らないと言っていい。講義資料をもらったので時間のある時に勉強を進めていければと思う。
次に大塚孝治先生のShell Evolutionの講義。大塚さんは、tensor forceによるShell構造の変化(PRL 95, 232502)を初めとして様々な輝かしい業績を残している原子核分野の重鎮であり、関澤さん曰く「ワンピースで言うと海軍大将」。tensor force関連の話は僕も最近触れ始めている部分なので基本的なことは知っておく必要がある。Shell modelに関しては、正直未だによく分かっていない。その上No Core Shell ModelだのMonte Carlo Shell Modelだの派生がいくつもあるのだからなおのことである。コアの存在を仮定してvalenceだけで計算するというのがShell modelのミソなのに、No Core Shell Modelとか言ったらそれShell Modelである必要あるんか?と思う。まあでもエライ人が皆これを使っているならあるんだろうと思う。そのくらいの認識。
あとはWu Meng-Ru先生のr-processに関する講義。r-processは僕の研究のモチベーションを語る上では外せない要素なので、教養的な部分はカバーしておく必要がある。ただこの講義、難しすぎて全く理解できなかった。気付いたら寝てた。寝てたというか気絶していた。どちらかというと気絶させられたようなものだ。講義ノートはもらえたためいつか勉強したい。
他にもなんかそれなりにおもろい講義がいくつかあった気がしたけど忘れたので割愛。
ポスターセッションでは学生が各々のポスターの部分に立って訪れた聴衆と議論をする。弊学コロキウムのような形式ばったものではなく、ワインを片手にワイワイお話をしながらついでにポスターも見るくらいのゆる~い感じである。
僕のポスターはというと、廊下の隅のさらに隅の方についでのように設置されたためあまり人が訪れなかった。それに、ポスターセッション全体を通して、聴衆陣(主に講師陣)は色んなポスターを回るというよりも、自分たちの知り合いだけの中でループしているといった感じで、あまり全体に目が行き届いているようには見えなかった。本スクールに限らず、何につけ、核物理学者は内輪でかたまりがちである(僕も気をつけなければいけない)。途中からはめんどくさくなってブレークルームにあるお菓子を一生食べていた。
とはいえ、参加者は学生・講師を問わず皆基本的にはいい人だった。学生の大半は中国人で日本人は数えるほどしかいなかったが、皆(英語を話せない)僕らにもフレンドリーに接してくれた。何人かからは、僕のポスターについて議論をもちかけられたりした。こういう段になると、自分の英語での説明能力のなさを痛感させられて少しイヤになる。
それと日本人の中では、京大で核理論をやっている鵜沢さんという方と知り合い、その好で11月に京大で行われるセミナーでtalkをすることになった。こういうところでコネクションは生まれるものなんだなあ、と思った。
原子核三者若手夏の学校2023
ホームページ:https://www2.yukawa.kyoto-u.ac.jp/~sansha.wakate/school2023/index.html
毎年行われる素核宇分野の学生が参加するサマースクール。前年はオンラインでの開催だったが、今年は原宿のオリンピックセンターを借りてハイブリット形式で開催される運びとなった。途中で研究会と称して学生の口頭発表のセッションがある。
講義に関しては、あんまり聞かなかったので特に言及することは避けておく。ただ、あまり興味は惹かれなかった。
この手の研究会にしては珍しく、参加者は理論系が多くを占めていたらしい。実際研究会でも理論の発表がほとんどだった。
夏学の参加者はM1~M2がボリュームゾーンだと思っている(実際発表者はM1が大半だった)ので、発表では込み入った理論的な話は避けてモチベーションと概略的な結果を説明することに終始した。発表というよりも、自分の研究について知ってもらう宣伝のような感じである。実際質疑では3~4人から質問があり、その後の休憩時間でも何人かに議論に訪れていただいたため、狙いは悪くなかったと思う。
質問は主に中性子星に関する割とfundamentalなものが多かった。やはりと言うべきか、中性子星というワードは今ホットというか、広く興味を惹かれているトピックのようである。
僕からも、割と色んな人に質問をした。興味を持った発表にはSlackの個人チャットで突撃して発表スライドや参考文献などを聞いたりもした。が、まだちらと目を通したくらいでちゃんと読めていない。わずかな時間を見つけて勉強したいところだが、そういういわゆる積読みたいなものが今大量にあるのでどこから手をつけたものか悩みどころだ。
あとこれは余談になるが、僕の発表がどうやら優秀発表賞を受賞したようである。ただこれは発表のしかたが優秀だったというよりも、中性子星という話題性のあるテーマと一応ある程度の計算結果が得られている(一貫したストーリーを構築できる)というアウトラインの要素が大きいと自分で感じている。正直な話、上で述べたように発表者の大半はM1だったので、M2の自分がスライドの出来としても研究の結果としても圧倒的に有利なのは言うまでもないことだ。賞をもらって当然、とまでは言わないが、個人的には少し負い目を感じる受賞だった。
The 1st IReNA-Ukakuren Joint Workshop
ホームページ:https://indico2.cns.s.u-tokyo.ac.jp/event/249/
日本の宇宙核物理連絡協議会(宇核連)と、国際的な宇宙核の研究者コミュニティらしい?IReNA(皆”アイリーナ"と発音していた)が主催する合同研究会である。言語は英語で、実際参加者の半分近くが海外の研究者である。口頭発表とポスター発表のセッションがあり、僕は口頭発表を申し込んだ。
発表時間は招待講演者には32+8分で、希望講演者にはその身分を問わず25+5分の時間が与えられる。僕はこれまで色んな場所で発表をしてきたが、修士学生がやっているチョロい研究に与えられる発表時間なんてのは大体において15分そこらが関の山で、招待講演者の後ろに刺身のツマみたいな感じでアサインされるのが普通である。計30分の発表なんてのはもちろん初めてのことで、しかも英語で話さなければいけないということで、それはもうめちゃくちゃ緊張した。
宇核連とは名前がついているものの、実態は宇宙核というより宇宙物理と核物理、という感じだった。宇宙の人と原子核の人がたまたま同じ場所にいてそれぞれ発表してるだけみたいな。ブレイクタイムでも懇親会でも、宇宙の人は宇宙の人と、原子核の人は原子核の人とで内輪で固まってワイワイ話し込んでしまっており、あまり学際的な交流が行われているとは言い難い様相だった。講演も、片方の分野の人にだけウケてもう片方の人たちはスマホをいじっているかコーヒーでも飲みながら腕組みをして目を閉じているといった感じで、双方にとって刺激を与えるような構成になっているとはあまり思えなかった。
とはいえ、この世界を核子の集まりだと思い込んでいる核物理学者と、この世界を電磁波の集まりだと思い込んでいる天文学者の間には大きな開きがあることは疑いなく、そのギャップを埋めるのは難しい。恐らくどの講演者も、自分たちのコンテクストに精通していない人たちにどのように自分の研究を伝えるものか苦労されたことだろうと思う。もちろん、僕もその例に漏れない一人である。
僕の発表では、中性子星に関する概念的な話を軽くした後、僕らが研究手法として主に用いている密度汎関数理論がどのようなものかを丁寧に説明した。25分も発表時間があるということで、かなり丁寧に説明した。丁寧に説明しすぎて時間が足りなかった。resultの段に入った時点で残り数分しかなく、「まあ大体こんな感じです」みたいな適当な感じで誤魔化すしかなくなってしまった。トホホ。発表の際にはきちんと事前練習をして時間配分を考えておくべきである。スライドを間に合わせることに必死過ぎてそのあたりがすっかり疎かになっていた。
質疑では、iTHEMSの内藤さん(彼は僕の指導教官である関澤先生のマブダチである)からDFTのパラメータについて質問され、SLyじゃなくてSkM*を使った方がよいという助言を頂いた。理由も合わせて教えていただいたのだが、あんまりよく分からなかった。pnのpairingがどうとか仰っていた気がする。とはいえ、そんなに手間のかかる作業ではないのでこれは試しておくべきだろう。それと、同じ研究室の服部くんから有効質量の定義についていくつか聞かれた。服部君は僕の研究に関する質問を、普段の議論の時ではなくこういう研究会の質疑でぶつけてくる。同じ研究室とか関係なく発表を聞いて疑問が浮かんだから聞いているのか、質問者が誰もいなかったらかわいそうだから世話人みたいな感じのつもりで聞いてるのか、それとも普段は話しづらいやつだと思われてるのか、イマイチよく分からない。ただ質問をもらえることはシンプルにありがたい。
発表後にも何人かから質問があり、まずは宇宙の分野でクラストの研究をしている人から内殻の構造について色々と聞かれた。熱的に内殻のパスタ相が生き残れるのかみたいなことを質問されて、まあ中性子星ってkeVスケールだから平気なんじゃないかみたいな感じのざっくりした回答を返した。その他にもいくつか話をしたが、同じクラストの研究とはいえ、あまりお互いの研究内容にオーバーラップがあるとは思わなかった。それと、パスタについても日本人の人からちょっと聞かれたが、何を話したかあまりはっきりとは覚えてない。
交流としては、後述の中性子星ワークショップにも参加する予定の人とも何人か知り合いになった。ガッツリ天文の人ではあったが、全然知らない研究会に知り合いが一人でもいることは心強かった。
Microscopic approach from pair correlation to pair condensation
ホームページ:https://indico.rcnp.osaka-u.ac.jp/event/2163/
RCNPで行われた、対凝縮に関する研究会。原子核の人がメインだったが、中には物性で超伝導とかをやっている人もいた。旅費の補助が出なかったので僕は発表は申し込まず、オンラインでの参加とした。
現地開催の研究会にオンラインで参加したのは久しぶりだったが、画面の向こうからワイワイ楽しそうな話し声が聞こえる中、自室で一人でパソコンに向かい合っているというのはあまり気持ちの良いものではないというか、なんだか物寂しい感じがする。とはいえオンラインの参加者にも質問が開かれているだけで感謝すべきだろう(オンラインからの質問は一切受け付けないとかいうふざけた研究会も世の中にはたくさんある)。
参加した当初は対凝縮なんてニッチなテーマでそんな語ることないだろとか思っていたが、実際に発表を聞くとかなり様々な分野で様々なアプローチから調べられていて驚いた。また多くの人の発表にあった、スピントリプレット(つまりスピンの向きが揃う)の対凝縮なんかは初めて聞いたので興味深かった。中性子星内のような高密度下で現れるらしいのだが、僕のやっているようなクラスト領域でも現れるのだろうか(密度的にはなさそうな感じはしたが)。
僕は発表を申し込まなかったが、指導教官の関澤さんが講演をしていて、そこでは主に僕の研究についての話をしていたので、実質的には発表したみたいな感じになった。
思ったのは、僕らの実現した計算はまだ生まれたばかりの赤ん坊のようなもので、原子核物理や天文学、対凝縮など様々なトピックにまつわる現象を明らかにするには耐えられないということだ。言い換えれば、僕らは現段階ではまだ「計算」ができるようになっただけで、そこから物理を取り出す段階にはまだ至っていない。しかし、事実として僕らは計算を実現したばかりなのだからこれは当然のことである。そして、あらゆる研究にだって赤ん坊の時期があったはずだ。問題はそれをいっぱしの大人に育て上げられるかどうかである。
オンラインなので他参加者との交流みたいなものはなかったが、これまで色んな研究会やらスクールに参加していたおかげで、特にnuclear theoryのおじさんたちには見知った顔も多かった。だから何だと思われるかもしれないが、知った顔が少しでもいるというだけで、質問や発言をするハードルはぐっと下がるものである。
中性子星ワークショップ2023
ホームページ:https://indico2.riken.jp/event/4516/
隔年で開催されているらしい中性子星に関する研究者が集まるワークショップ。前回はオンライン開催のところ、今回久しぶりの現地開催となった。中性子星にまつわる研究をしていれば何でも良いということで、天文から僕らのような原子核、素粒子側の人まで様々な分野から参加者がいた。僕は口頭発表とポスターを両方申し込んだが、ポスター発表はほぼオマケのようなもので、実質的には口頭発表が主であった。
様々な分野とはいったものの、参加者の大半は天文の人だった。事前に運営側から「色んな分野の人がいるからなるべく他分野にも分かりやすい説明を」と案内が来たにも関わらず、彼らの方では平気でjargonを使っていたのが鼻についた。例えば彼らは、観測機に天体現象が有意に検知されることを「うかる」という。意味が理解できないわけじゃないから別にいいけど、いや自分らはいいんかいとは思った。それと内輪ノリみたいなのもかなり目立った。まあ別にいいんだけどさ、ほとんど内輪みたいなもんだろうし。ただどちらかと言えばやめた方がいいと思う。悪意のある言い方をすれば、十数年前のニコニコ動画のコメント欄みたいな雰囲気だった。
発表の方では、観測だけでなく、理論的なアプローチの研究も多く幅の広さを感じた。ただ思ったのは、やはり天文の人は理論でも実際の現象(あるいはその観測)にリンクさせられるかを重視しているようだった。それは僕の発表の時にもよくよく思い知らされた。僕の発表に対する質問は、ほとんどが「その結果は実際の現象のシミュレーションに使えるのか」といった内容のものだった。この研究会で初めて、この時ちょうどまともな結果が得られた有限温度のneutrino-pasta散乱の計算について話したが、それについても、原始中性子星の冷却シミュレーションへの適用可能性について突っ込まれまくって、僕はただ「分かりません。すいません」と言うだけの機械になっていた。
ただこれは天文の人がミクロな物理に理解がないということだけではなく(彼らに理解がないことには間違いないのだが)、僕らの計算がまだマクロな物理量を出す段階に行っていないということもあるだろう。正直言って、僕は自分の計算が天文のシミュレーションのどこまで応用できるのか、イマイチ分かっていない。天文の人にとっては、「なにこれ、中性子星の話なの?」みたいに思われたことだろう(もちろんこれは逆も然りなわけだけど)。今後天文分野も混ざる発表の場では、この先の研究の展望とか、この計算が完成したらどういう方面から中性子星の解明に貢献できるのかとか、そういうロードマップ的なものを最初に見せた方がいいと思った。まるで研究費の申請書みたいだ。
交流については、先日宇核連で知り合った人とちょっと話した。それと、宇核連のその場で話したわけではないのだが、そこで僕の発表を聞いてくれた人からこの研究会で少し声を掛けられて、僕の研究についていくつか質問をされたりした。BCSとかのことにも言及されたのでもしかしたら核寄りの天文の人だったのかもしれない。その人もクラストの研究をしているらしいが、僕の計算とそこまでオーバーラップしているようには感じなかった。
それと僕がやっているバンドとHFBの組み合わせについて、かなり突っ込んだ議論をふっかけてきた人もいた。曰く、昔同じような計算をやって定性的には僕のと同じような結果が出ると予想していたが、実際どうなるかまではちゃんと計算せずじまいだったらしい。ちゃんと予想通りの結果が出るようでよかったと言っていたが、正直よく分からなかった。僕の研究以外の文脈でこんなケッタイな計算をする理由は、あんまり思いつかない。話を聞くと、どうやらNJL(Nambu-Jona-Lasinio)模型からも色々条件を課すとHFB方程式が出てくるらしいが、そんな話は聞いたことがない。結局のところ、よく分からずじまいだった。「関澤君のところの学生でしょ?」と言われた。ガッツリ天文の人っぽかったが関澤さんと知り合いなのだろうか。調べようにも名前を聞くのを忘れてしまった。僕が高校の時の部活の顧問にちょっと顔が似ている(どうでもいい情報)。
おわりに
以上です。いかがだったでしょうか。
ちょっと色々書かなくていいことも書いてしまった気がします。でもまあいいか。キレイごとだけでも面白くないと思うので。
まあでもなんだかんだ言って、こういう研究会に参加することは意義があることだと思います。特に僕のように、色んな分野の知見を少しずつ齧ってできているような研究に携わる者にとっては、その分野の先端で現在どういうものが考えられているかを知るのは重要なことだと思います。
ただ正直、今年の8月~9月前半は研究会に振り回されっぱなしで、ほとんど自由な時間がないみたいな感じで割と辛かったです。来年からはもう少し量をセーブしようと思います。
皆さんも容量・用法を正しく守って、色んな研究会に参加してみてはいかがでしょうか。それではさようなら。
おわり